アラザンのゲーム日記

ゲームが好きです。

めんどくさいオタクが『オタク用語辞典 大限界』を読んでみての感想(ポケモン勢的感想多め)

巷で話題の『オタク用語辞典 大限界』を購入して読んでみました。ないとは思いますが内容の修正もあり得るかもしれないと思ったため実本で購入しました。


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購入理由

プレリリース発表後から内容に対する批判があり、良い意味でも悪い意味でも話題になっていました。(辞典として出すな、オタクの範囲が狭すぎるといった批判、用例がおかしい等)
私はゲームスラングや海外ミームの由来をしらべたり、知らない界隈の話を聞いたりするのが好きなため、辞典としてではなく単なるサブカルチャーについての読み物として楽しめると思い購入しました。
オタクが自分の好きなものを語っているところが好きなため、この本にもそういう要素があればいいと思っていました。
結論からいうと個人的面白い要素もありましたが、ん?と思う要素もあり人にはオススメできないかもと思います。

面白かった部分

個人的に面白かった項目は「積む」です。私の知る界隈ではゲームを積むやプラモデルを積むなどのように購入したものを使用せずにそのままにしておくことといった意味で使われていると思っています。この書籍では

ある商品に付随する特典〔=握手券〕を得るためや、ランダムに出現するアイテムを得るためなどに、大金を投じて、商品を購入する。

(p20)

と書いてあります。他の意味は書いてありません。オタク用語と銘打っておきながら意味が一つしかないのは辞書としてはおかしいだろといいたくなる人もいるとは思います。。しかし、書籍は短期大学の学生がゼミで制作した同人誌がもとになっており、偏りがあることを認識したうえで読んでいるため作者達とのカルチャーギャップの面白さと受け止められました。

また三次元共通用語、日本の男性アイドル界隈用語、K-POP界隈用語は全く知らない界隈なため面白く読めました。特にK-POP界隈の『センイル広告』、『ヨントン』は異なる文化に触れた楽しさがありました。また、BL界隈用語は漠然とした知識はありますが詳しくはないため界隈のあるあるとしてよくある設定が語られているのは面白かったです。

 

よくなかった部分

項目に偏りがある

目次からわかっていることでありますが項目に偏りがあります。以下に目次を引用します。

  • 第1章 オタク共通用語
  • 第2章 三次元共通用語
  • 第3章 日本の男性アイドル界隈用語
  • 第4章 K-POP界隈用語
  • 第5章 2.5次元界隈用語
  • 第6章 二次元共通用語
  • 第7章 ゲーム共通用語
  • 第8章 アークナイツ界隈用語
  • 第9章 スプラトゥーン界隈用語
  • 第10章 ファイアーエムブレム界隈用語
  • 第11章 プロセカ界隈用語
  • 第12章 ポケモン界隈用語
  • 第13章 原神界隈用語
  • 第14章 BL界隈用語

このうち第5章 二次元共通用語は2ページしかありません。二次元というオタク界隈でも膨大な範囲を占めるのに2ページしかなく落丁を疑いました。また2.5次元用語は『刀剣乱舞』と『テニスの王子様』(通称テニミュ)関係のものしかありません。またゲーム関連はシリーズ作品でも最近の用語が多く、古いネタや昔の作品の用語についての記述は少なめです。作者たちが短期大学の女子大生であるためか全体的にX(旧Twitter)で流行ったネタや最近のネタ、ゲームはswitchとスマホで出来るゲームについて書かれています。また、オタクの説明として

推しのために自身が持つありとあらゆるものをなげうつことができる者。推しの話題になると、突然、早口クソデカボイスボイスになることでも知られる。「ヲタク」とも表記される。略して「オタ」「ヲタ」。

(p.7)

そのオタクの用例として「オタクがキモイとか、前時代的過ぎて笑う」()とあります。この説明と用例に嫌悪感を持った人は随所にこのようなノリがあるため読まない方がいいと思います。私はオタクがキモイけどキモさの中に面白さを感じるタイプです。

 

すべてに用例がある

すべての用語に用例がついています。それも何かからの引用とかではなくX(旧Twitter)でみるような会話が使用されています。オタク用語の自然な用例を残したかったのだという意図はわかります。用例で使われている単語に用語辞典に乗ってないものがあるのはオタクの内輪ネタとしてありだとも思います。しかし、すべてにつけてしまっているため単純に中身がないものも多くて読んでいてつまらないなと思ってしまうものも多いです。

間違いが多い

他の人も語っていますが意味や用例が間違っている部分が多々あります。特に第8章から第13章にかけての個別ゲームは担当している作者が少ないのかわかりやすい間違いが多いと思います。
私はこの書籍でまとめられている界隈である程度詳しいのはポケモンくらいでしたがその中だけでもいくつか見つかりました。例えば撃ち逃げの説明として

デメリットの大きい技を撃った後、すぐに控えのポケモンと交換すること。用例撃ち逃げ破壊光線気持ちい~

(p206)

という記述がありました。説明はあっているのですが、破壊光線は撃った後は反動で動けず交換もできないため撃ち逃げの用例としては不適切です。自分ならオーバーヒートやリーフストームを用例に使います。一般的にも知名度がある破壊光線を用例に使いたかったのだと思いますがそれに固執したために用例が一般的でなくなっているのは問題があるとおもいます。

また撃ち逃げは間違っているのは用例でしたがミラクル交換とマジカル交換という用語の説明が間違っています。マジカル交換の説明としてマジカル交換は『スカーレット』『バイオレット』から実装されたミラクル交換をパワーアップさせた内容と記述されています。マジカル交換になったのは正しくはポケモンソード・シールドからです。

次のページでミラクル交換についての説明がありミラクル交換は第8世代から実装されたポケモン交換システムとされています。この記述も間違いでありミラクル交換の初出は第6世代のポケモンX・Yからです。ポケモンも歴史が長いシリーズであり、製作者は20代の学生なため過去作をすべてプレイをしていないのは問題ないと思っています。しかし、ミラクル交換とマジカル交換が違うものと分かっていながらなぜ説明を間違えるのか。どういう調べ方をして間違ったのか、編集は何をやっているのか疑問に思いました。

間違いではないにしろ辞書として言い切るには疑問が残る記述も散見されます。ポケモンではHABCDSという略称が使われていますがその意味としてそれぞれの単語の頭文字を並べた表現

HP=Hitpoint

こうげき=Attack

ぼうぎょ=Block

とくしゅ=Contact

とくぼう=Diffence

すばやさ=Speed

を指すと説明されています。確かに一部サイトではそのように説明されていることもありますが英語版のポケモンではぼうぎょがDefense、とくしゅはSpecial attack、とくぼうはSpecial defenseと表記されており単語の頭文字からきていると言い切ることは難しいようです。詳しくは以下のブログ記事が面白かったためおすすめです。

zahnradpoke.hatenablog.com

またやどみがの項目の説明にやどりぎのタネとみがわりのコンボと書いてあるのはいいのですが付け足して"かつてエルフーンがコットンガードの後に使用する技として採用され、対戦環境を牛耳った"と説明されています。私はポケモン対戦はそれほどやっていませんでしたが、構築記事を読むのは好きなタイプだったため一体どの対戦環境でエルフーンが対戦環境を牛耳ったのだろうと思いました。8世代ですかね?詳しい人がいたら教えてほしいです。

また使用率という用語があり、意味はそのままそのポケモンが全体のうちどれくらい使用されているかのことなのですが、ポケモン界隈にはKPという独自用語があるためそれものせてほしかったなと思います。

 

全体的に主語がでかく、断定的である

辞書という形式をとっているためか全体的に主語がでかく、断定的であることが気になてしまいます。例えばゲーム共通用語にリジェネという用語説明に

HPが一定間隔で持続的に回復する、バフ効果。語源は英語「regeneration(再生、復活)」(p.75)

とあります。確かにそういう説もありますが、ゲームスラング的なリジェネはファイナルファンタジーの魔法が元ネタとして大きくあると思われそこに触れず英語が語源というのは不誠実です。ゲーム用語やオタク用語は必ずしも語源や使用された経緯がはっきりしているわけではないため簡単に言い切ってしまうのは違和感を覚えてしまいます。

 

過度に攻撃的で蔑称を取り上げている部分がある

収録されている用語に過度に攻撃的な用語、蔑称、悪ノリが入っている部分があります。例えば、ポケモンでは唯一王、ゴキブロス、コピペロス、増田ァ!、等といったネタ、蔑称を乗せており人によっては不快感があります。本全体がふざけているものなら、面白く読めたかも知れないのですが、公式のゲーム用語はそのまま面白みもなく説明しているため、気になってしまいます

三次元共通用語、日本の男性アイドル界隈用語、K-POP界隈用語では見られなかったため担当した作者の人数が少ないところは悪ノリが出てしまっているのかなと思いました。(その界隈に詳しくないから気にならなかったのかもしれません)

 

用語の採用の不足または水増し

用語の採用に不足が見られます。特に第8章から第13章にかけての個別ゲームの項目は何も知らない人が見て内容を理解できるようにはなっていません。例えばポケモンではガンテツボールの用語はあってもモンスターボールの用語はない、ピカチュウ的な存在と説明されているがピカチュウの用語はないため全く知らない人は内容を理解できないと思われます。ならば知っている人向けの内容ばかりなのかといわれるとポケモンでは各シリーズの略称、第一世代といった名称の範囲、プレイしていればわかるゲーム内の用語の説明ばかりなためどこに向けて書かれているのかわからなくなっています。(しかもあくまで50音順に書かれているため第1世代の後に第9世代の説明が来てしまい非常に読みづらい)

そういうの知りたいなら有志のwikiで自分で調べればよくないかと思ってしまいます。読書感想文で文字数を埋めるためにあらすじを書いているような印象を受けます。

 

また用語に対して説明が短くオタクの早口を見たいという需要も満たせてないです。例えばポケモンで『130族』という用語がのっていますがその意味は

おもに「すばやさ」種族値が130のポケモン。他のステータスを参照する場合は「攻撃種族値130族」などと呼ばれる。

(p230)

これだけです。130族という用語を載せているならばなぜ130族を載せたのか、なんで130族は注目されるのかを書いてほしいと思います。例えば、第4世代環境において130族はクロバット、サンダース、プテラが該当しておりそれよりすばやさが高いポケモンは少なかった。人気や使用者も多かったためため130族を素早さで抜いていれば大体の相手より早く攻撃できるということでスカーフを使う際や天候特性を使う際の素早さ調整の指標の一つとされていた。第5世代では130族の使用者も減り、新しい130族も現れなかったためある種の指標として残ったが下火ではあった。第6世代では新たにメガゲンガーが130族として現れ、近い素早さにメガライボルトもいたため再び調整先としての注目が高まった。第7世代ではカプ・コケコも現れたため調整先として意識されることがさらに増えた。また、極振りでlevel50のステータス実数値が200となるのも美しさがある。とあまり調べず昔見た文章をもとにしているため適当ですがこれだけ語れてしまいます。一つの用語に長々と説明を書くのは難しいのかもしれませんがもっと語ってほしかったなと思ってしまいます。

 

総評

間違いが多いし、網羅できていないから辞典とはいえません。20代の女性オタク事情を語っている書籍としてみた場合には一定の面白さがあります。しかし、そうしてみると辞書であろうとした部分が足を引っ張っています。

少し調べればわかる間違いも多く、学生の同人誌として作られたなら文句はないが、商業出版せれている辞書と銘打って出すならもっと編集は仕事するべきだろうと思います。

個別のゲームの項目の気持ち悪く、悪趣味そしてな楽しみ方ではありますが採用されている用語や用例、間違っている箇所から作者のプレイした作品、好きな部分、コンテンツとの関わり方について考察するのも面白いかもしれません

前述しましたが三次元共通用語、日本の男性アイドル界隈用語、K-POP界隈用語は全く知らない界隈なこともあり楽しかったです。作者たちがもっと詳しくそれらの界隈について語ったものがあったら読んでみたいとは思いました。